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【入管法改悪反対!連載③】 ウィシュマさん死亡事件から2年…現場は改善されているのか?

 2021年3月6日、名古屋出入国在留管理局(名古屋入管)の収容施設で、収容中だったスリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさんが亡くなりました。ウィシュマさん死亡事件からすでに2年が経ち、今国会では、入管の権限をさらに強める入管法改悪法案が提出されました。果たして死亡事件の現場である入管の収容施設は死亡事件の再発防止に向け、改善されているのでしょうか?

 今回は今の各地の入管収容施設の現状について報告します。


①医療問題

 入管庁は、ウィシュマさん死亡事件が起きた要因のひとつとして医療体制の不備をあげ、これまで有識者会議も開いて収容施設での医療体制の改善を行っているとアピールしています。では、改善がされているはずの現場で、どのような医療が行われているのでしょうか。今回は大阪入管と、牛久入管で起こった事例を紹介します。


大阪入管 Sさんの事例

  Sさんは、鼻血の症状を訴え、2022年12月23日に入管局内の医者にかかり、診察を受けました。医師は、鼻の中をライトで見て、「切れていますね」と話したそうです。Sさんは、以前からアトピー性皮膚炎で入管からリンデロン(ステロイド外用薬)と、鼻炎の薬として点鼻薬のアラミスト(鼻腔内に噴霧するタイプのステロイド薬で、アレルギー性鼻炎抑制作用等がある)を出されていました。医師は、以前から出されている点鼻薬を一旦やめて、リンデロンを、鼻の中の患部に塗るようにSさんに指示しました。「また鼻血が止まらなかったら言ってください」と言われました。

 Sさんは、医師の指示通り、診察後から1週間、塗っていましたが、鼻血はよくなるどころか悪化しました。1週間たった大晦日の頃、症状が悪化していることを職員に訴えましたが、職員は、「また止まらなくなったら言ってください」というばかりで、対応してくれませんでした。

 2023年1月7日の午後、収容所の居室の扉が空き、開放時間が始まると同時に、鼻血のついたティッシュでいっぱいになったゴミ箱を示して、職員に強く抗議しました。その結果、治療を受けられるどころか、隔離処分という、懲罰的な処遇を受け、いつもの居室ではなく別の部屋に連れて行かれたのです。

 隔離部屋に連れて行かれた際、鼻血が止まらなくなり、同日の夕方、入管局内の医師ではなく外部の耳鼻科を受診しました。その際、入管の医師にリンデロンを塗るように指示されており、それを塗っていたことを話すと、外部の耳鼻科の医師は「ステロイドが入っているものは塗らないでください。逆効果です。ステロイドは外部の傷にはいいですが、内部に塗るのは良くない。ワセリンを塗ってたら徐々に治ります。」と言われたそうです。その日は、血を止めるクリームを塗る処置をしてもらい、鼻血はぴったり止まりました。

 外部の耳鼻科の医師にかかり、ワセリンを塗るようになってから、症状が悪化することはなくなり、鼻血の症状は改善しました。



牛久入管 Cさんの事例

 Cさんは2022年12月10日に職員に足を踏まれて、右足のアキレス腱を痛め、入管局外の病院(整形外科)に行き、痛み止めの注射を打うちました。

 2022年12月18日までは入管の外の専門医に受診し治療を受けていましたが、まだ完治していないのにもかかわらず、12月22日に治療が打ち切りになったと一方的に告知され、未だきちんと治療がなされず、放置されています。


②食事問題

 大阪入管の被収容者によると、ある日の1食の支給食の内容は、「コーン7粒,人差し指の第1関節程度の大きさの肉団子1つ,3cmのブロッコリーひとかけら,さつまいも一切れ,白ごはん」でした。これは、時々ある食事の内容ではなく、このようなとても栄養が足りないような支給食の内容が常態化しています。内容に加えて、お肉が臭ったり、「米の味がおかしい」など、被収容者が口々に食事の劣悪さについて訴えています。ある被収容者は、「外国人だから口に合わないというレベルではない。人間はもちろん、犬も食べないような食事だ」と話します。

 被収容者からも何度も改善を求めて抗議していますが、内容は一向に変わりません。


③強制送還

牛久入管 Cさんの事例

 Cさんは、7歳の頃から日本に在留されている方です。しかし、在留資格を失い、2022年10月6日に入管から退去強制令書が出されました。7歳から日本に在留し、家族も日本にいるため、強制送還に応じることはできず、弁護士と共に、一時的に収容を解かれる、仮放免申請の準備をしていました。

 その準備の最中である2022年12月8日に強制送還されそうになったと言います。Cさんは「急に令状みたいなのを見せられて、腕を捕まえれて何の説明もなく連れて行かれた」と話しています。連れて行かれる際、家族に電話したいと申し出ても電話をさせてもらえませんでしたが、弁護士とはなんとか連絡を取ることができ、急遽訴訟を起こすことによって強制送還を免れました。


名古屋入管 Aさんの事例

 名古屋入管に収容されていたAさんは、収容された当初から高血圧でした。収容されてから2,3ヶ月経って外部病院に行き、心臓の血管の3本のうち1本が詰まってしまっていると診断されました。医師からは悪化すれば手術の必要が出てくると言われ、診断書には、脂の少ない食事、ストレスのない生活を送るようコントロールすることが指示されていました。

 Aさんには内縁の奥さんがいて、Aさんも奥さんも一緒に生活することを望み、仮放免申請をしていました。先の見えない収容施設でストレスは絶えません。仮放免で外に出て奥さんと生活することでストレスのない生活を送るようにするべきです。しかし、入管は仮放免申請を不許可にしました。

 さらには、入管はAさんに血圧を下げる薬を出していましたが、飲んでも血圧が下がることはありませんでした。すると入管は10mgでだめなら20mg、40mg、80mg...と倍々で薬の量を増やしたのです。これでは心臓に負担がかかります。Aさんは血圧を下げる薬を含め、1日10錠以上の薬を服用していました。

 奥さんからも入管にもうこれ以上薬を増やさないでほしい、外に出してほしいことを訴えましたが、入管は認めませんでした。

 2023年2月上旬、Aさんと同じ区画に収容されている人から、Aさんが昼に職員何名かに連れて行かれたという情報が入りました。奥さんにも何の連絡も入っておらず、Aさんがどこに連れて行かれたのか、全くわからない状態でした。

 Aさんが連れて行かれてから3,4日経って、Aさんから奥さんに連絡がありました。Aさんは母国に強制送還されていました。

 強制送還の際、Aさんは母国の空港に放り出されたような状態で、所持金も少ししか持っておらず、頼れる親戚に連絡することもできないまま数日間野宿生活でさまよっていました。体調が悪化し倒れていたところを救急搬送され、病院から奥さんに連絡してきた、という経緯です。現在、Aさんは病気が悪化し、治療をしなければならない状態にあります。



 以上は現状、全国の入管収容所で起こっていることのごく一部に過ぎません。間違いなく言えることは、ウィシュマさんが亡くなる根本的な原因でもあった、「命や健康よりも送還を優先する方針」、その下での入管収容所内の処遇は何も変わっていないということです。人が何人亡くなっても、反省など全くなされず、この方針は一貫して貫かれているのです。

 今回の入管法改正法案は、入管の送還する力をより強くするものです。しかし、現場を見れば、被収容者の命、健康を守るという収容主体としての責任は一切果たされていません。こんな状態で、入管にさらなる権力を与えることは許されず、もしより強大な力が与えられるとすれば、今まで以上の犠牲が出ることは間違いありません。

 これ以上の死者を出さないためにも、入管法改悪法案に断固反対します。

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