送還一本やり方針の破綻と問題解決の先送り
ここまで述べてきたことを整理します。
2017、8年ごろから入管収容問題が大きく関心を集める状況になったわけですが、その問題というのは2010年までに、いわば「できあがっていた」のです。2000年代の前半から08年ごろにかけて、入管当局は20万人以上いた非正規滞在者を、一方では警察などと連携しての摘発・送還の強化によって、他方では在特基準の緩和によって半減させました。その後は一転して在特基準を厳しくして、残る10万人以上を送還一本やりで減らしていこうとしました。ところが、難民やすでに生活基盤が日本にしかないなど、帰るに帰れない事情のある人たちは多く残っています。さきに図1にふれながら述べたように退令発付処分を受けた人のほとんどが帰国しているということから考えると、非正規滞在者のうち事情があって送還に応じられない人はごく一部、全体の数パーセントといったところでしょう。しかし、再収容・長期収容で徹底排除しようという強硬方針が、そういった全体からみれば例外的ともいえる送還を拒否せざるをえない人びとの存在を浮かび上がらせたのです。その意味で、2009年から2010年にかけては「送還忌避者」問題が顕在化した期間だと言えます。
図1 退去強制令書発付件数と被送還者総数の推移
先にみたように、2019年に法務大臣は「様々な理由で送還を忌避する者」の存在が「迅速な送還に対する大きな障害となっているばかりでなく、収容の長期化の大きな要因となって」いると述べていました。しかし、そのおよそ10年前にすでに入管は「送還忌避者」の問題に出会っていたのです。
当時、この問題に直面した入管が選択したのは、「仮放免を弾力的に活用することにより、収容長期化をできるだけ回避する」というものでした。その結果、図3で示したように、2010年から2015年まで、退令仮放免者数が急増していくのです。これは入管にとって問題解決を先送りしたということです。長期収容・再収容して追い出そうとしたら大問題になったから強硬策はとりあえずひっこめて仮放免許可をどんどん出した、ということです。
図3 各年の退令仮放免者数
この間、入管は在特基準を厳しいままに据え置きました。送還を拒んでいる人のなかには難民申請者も少なくありませんが、日本で難民認定される人は現状ほとんどおらず、認定率が1%にも満たないことは周知のとおりです。こうして、帰国しようにもそうできない事情をかかえる退令仮放免者の大多数は、在留資格をえられずに仮放免という無権利状態に置かれ続けることになっています。
さらに、新規に入国してくる人のなかにも、難民性が高いなど帰れない事情があるけれども在留資格を更新できずにオーバーステイになってしまう人は、当然ながら一定数います。こうした人たちも収容されても帰国を拒否せざるをえないので、いずれは退令仮放免者になっていきます。
このように入管の制度運用を歴史的にみてみると、入管の呼ぶところの「送還忌避者」数というものが入管政策によって10年以上かけて積みあがってきたのだということがわかります。「送還忌避者」を送還一本やりで減らしていくということが実現不可能な破綻した方針であることは、2010年にはっきりしました。「送還忌避者」問題を解決するためには、在特基準を緩和すること、また難民認定審査のあり方を見直し国際基準にもとづいた難民受け入れをしていくことによって、在留を認めるべき人に在留資格を出していく以外にないのです。ところが、入管は退令仮放免者の在留を正規化していくことには十分に取り組まず、帰国しようにも帰国できない数千人の人びとを仮放免状態に置いたまま放置することで問題解決を先送りしたのです。
(次回 5. 2015 年~ 再強硬路線/「本省通達による再収容増加・収容長期化」)
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