2021年3月6日に起きた名古屋入管ウィシュマさん死亡事件から、すでに1年半が経ちました。法務省ー入管庁は有識者会議を行い、医療体制の改善や再発防止を行うと述べていますが、事件の現場である名古屋入管や他の入管の収容施設はどうなっているのでしょうか。今年8月には大阪入管、10月には名古屋入管に対し、現場で面会活動を行う支援者から申し入れが行われました。提出された申入書から、今現場で何が起きているのか、再発防止は実現されているのかを考えたいと思います。
各申入書はこちらから
▶大阪入管
【2022/8/3申入れ報告】絶望の大阪入管~24人目の死者を出すつもりか?!~
▶名古屋入管
【10月6日】 長期収容反対!名古屋入管への申し入れ
①食事
今年4月からの大阪入管での具体的な状況として、「ごはんは弁当の底が見える薄盛りで、おかずの量も半分ほどに減っており、野菜も一口分の分量しか提供されていない。・・・ひじきの煮物、おひたし、きんぴらごぼうといった日本人向けのものが頻繁に提供されて」おり、被収容者からは「量が全く足りない」「こんな食事は食べられない」と怒りの声があがっています。
名古屋入管においても、被収容者から「(Dブロックの被収容者の)2人はイスラム教徒です。どっちも”生臭い”や量も少ないです」と意見書が提出されています。
どちらにおいても入管は「被収容者の訴えに耳を貸さず」、給食業者への改善指導などの対応を行っていません。
②医療
大阪入管では、コロナウイルスに感染し点滴治療を受けるうちに、腹痛の症状が発生したため「看護師を呼んでくれ」と連日要求した被収容者がいました。しかし、被収容者の訴えに職員は「今日は、看護師はいない」との対応を繰り返しました。実際は看護師はいるにも関わらず、嘘をつき、腹痛を訴える被収容者を約3週間にわたり医療放置しました。
名古屋入管には、入管から出される血圧を下げる薬を飲んでも、一向に血圧が下がらない高血圧の被収容者がいます。しかし、名古屋入管は、なぜ薬を飲んでも血圧が下がらないのか、その原因の究明もせず、薬の量を20mg、40mg…と増やすだけの対応をしています。
ウィシュマさん死亡事件後に入管庁が公表した事件の事実関係をまとめた報告書の冒頭において、入管庁は「収容施設は、被収容者の自由を制約して主要する施設であるから、全ての職員は、自ら被収容者の生命と健康を守る責務を有することを自覚して業務にあたることが基本である」と述べています。しかし、実際はどうでしょうか。大阪入管、名古屋入管の収容施設内で被収容者が置かれている具体的な状況を見ていけば、健康、命に関わる食事や医療の対応があまりにもずさんであり、被収容者の命や健康を守る収容主体者としての責任を果たしているとは言えません。
収容主体として、「食事の量が少ない」「生臭くて食べられない」という被収容者の意見を重んじ、改善する義務があるにも関わらずその意見を無視し、被収容者の体調不良の訴えに即対応しなければならないにも関わらず、医療放置をする。その背景には、法務省ー入管庁の掲げる「送還一本やり方針」があります。
一度入管法に違反した「不法滞在者」は追い返す、その送還一本やりな方針から、収容施設における処遇が、精神的にも肉体的にも追い詰め「これ以上、ここに収容され続けるのは耐えられない」と諦めさせ帰らせる、そのための処遇になっています。被収容者の意見、訴えを尊重することなく、入管の「なんとしてでも追い返す」という主観から出発し、あらゆる処遇や判断を行っているのです。
この入管の考え方はウィシュマさんを見殺しにしたときと同じです。収容される前に、暴力をふるわれていた男性から「(スリランカに帰ったら)罰を与える」という手紙が届き、帰国できないと訴えるウィシュマさんを、名古屋入管はDV被害者としてではなく、退去強制命令が出ているのに帰らない、法務省ー入管庁の送還一本やり方針に従わない厄介者として扱いました。ウィシュマさんが何度体調不良を訴え、「病院に連れて行ってほしい」「点滴を打ってほしい」とお願いしても、それは「日本に残るため、外に出るために嘘をついている」と、「詐病」であると決めつけ、目の前で苦しむウィシュマさんを見殺しにしました。大阪入管の申入書に具体的な事例として挙げられている医療放置をされた被収容者は、支援者との面会のなかで「(大阪入管から)自分は嘘をついていると疑われているのだと思う」と発言しました。今収容されている当事者の感じていることこそが、ウィシュマさん死亡事件以降の各地方入管局の収容施設の実態です。
法務省ー入管庁、またそのもとでの各地方入管局の考え方は、ウィシュマさん死亡事件以降も変わっていません。ウィシュマさんを見殺しにした、人の命よりも送還することを優先する方針が変わらない限り、いくら医療体制を改善しても再発防止はできません。このままでは、また同じことを繰り返します。
ウィシュマさん死亡事件の再発防止はウィシュマさんのご遺族の切実な願いとしてあります。では、どうやって再発防止をするのか。それは今まさに現場で何が起きているのか、当事者がどういう状態に置かれ、何を感じているのか、その実際から考えていかなければなりません。各地の収容施設で、支援者は継続して支援活動を行い、収容されている人たちは声をあげ続けています。実際に目を向け、再発防止を実現するために一緒に声をあげましょう!
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