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【入管法改悪反対!連載①】ウィシュマさん死亡事件の背景にある入管法改正案ー後編ー

なぜ、ウィシュマさんを救えなかったのか

 ウィシュマさんを助けることができるタイミングはいくらでもありました。それなのに、なぜウィシュマさんは約3か月で亡くなってしまったのでしょうか?ウィシュマさんは何の理由もなく突然嘔吐し始めたり、歩けなくなったわけではありません。

 ウィシュマさんが「帰らない」と伝えた瞬間に変わった入管側の態度から明らかなように、名古屋入管は、帰らないと言ったウィシュマさんを、入管のいうことに従わない「厄介者」、「悪者」とみなし、いくら体調不良を訴えても、外に出たいがためのアピール・詐病・嘘つきであるとみなしました。帰国圧力による精神的苦痛、医療を受けさせないことで身体的にも苦痛を与えて、ウィシュマさんを無理やり帰そうとした結果、ウィシュマさんを見殺しにしたのです。

 入管庁が2021年8月に公表したウィシュマさん死亡事件の報告書には、「収容施設は、被収容者の自由を制約して収容する施設であるから、全ての職員は、自らが被収容者の生命と健康を守る責務を有することを自覚して業務に当たることが基本である。」と書いています。収容施設末端だけではありません、入管庁にもその責務があります。入管には人の自由を奪い、収容する権利、「収容権」が与えられていますが、その権利は、被収容者の命や健康を守る高度な管理責任義務を果たして初めて成り立つものです。名古屋入管はウィシュマさんを保護していたのにも関わらず、彼女は死亡してしまいました。ウィシュマさんの命を奪ってでも追い返す、そんなことがなぜ、「生命と健康を守る責務」があるはずの入管の収容施設でまかりとおってしまったのでしょうか。こんなことでは、「収容権」など認められません。報告書では、死亡事件が起きた要因のひとつとして、現場の職員の意識の欠如が挙げられています。現場職員の意識の欠如で、ウィシュマさんは動物以下の扱いを受け、見殺しにされてしまったのでしょうか。


ウィシュマさんの死の背景にある、入管庁の「送還一本やり方針」

 なぜ、ウィシュマさんは命を奪われてしまったのか、その背景には入管庁の「送還一本やり方針」があります。

入管庁は、2015年から、日本にいる送還忌避者(退去強制令に従わず、帰国を拒否している外国人)をゼロにしようと、各地方にある入管局に内部通達や指示を出して、送還方針を強化してきました。しかし、いくら送還方針を強化しても、帰れない事情がある人は帰りません。結果、2018年に福岡入管、2019年に長崎の大村入管で死亡事件が起き、入管収容施設内での暴行事件も起きました。そこで、法務省―入管庁は、2020年から、入管にさらなる権限を与え、送還一本やり方針をさらに強化することを目的として入管法の改正を準備していきました。

この「送還忌避者はとにかく追い返そう」という入管全体の動きのなかで、ウィシュマさんは帰国意思を翻し、帰国を拒否しました。この瞬間から、入管にとってウィシュマさんは入管の送還方針に歯向かう「送還忌避者」であり、絶対に追い返さなければならない対象となりました。また、入管は、入管の送還方針に逆らったらこんな目にあうんだぞと、見せしめとしてウィシュマさんを詐病扱いし、非人道的な扱いをして、結果、命を奪ったのです。

 ウィシュマさん死亡事件以降も、ご遺族はウィシュマさん死亡事件の真相解明と再発防止を求め、裁判などの活動に尽力されています。しかし、入管、国側は、裁判においても証拠となる監視カメラの映像の提出を拒否したり、一貫して責任逃れを続けています。ウィシュマさん死亡事件からもうすぐ2年が経とうとしていますが、死亡事件の責任を誰もとっていません。

 そして、入管庁は、ウィシュマさん死亡事件を受けて反省するどころか責任逃れを続け、ウィシュマさんの命を奪った、人の命や健康よりも送還を優先する「送還一本やり方針」を強化するための入管法改正案を、また国会に提出しようとしているのです。こんな横暴を許していいのでしょうか。この法案が提出されれば、第2、第3のウィシュマさんが生まれてしまいます。こんなことは絶対に許してはなりません。


 ご遺族は二度と今回のような痛ましい事件が起きないよう、悲しみや苦しみを乗り越えて懸命に闘われています。ご遺族の願いである、ウィシュマさん死亡事件の真相解明、再発防止を実現するためにも、入管法改正案の提出を阻止し、廃案まで追い込まなくてはなりません。



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