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【入管闘争市民連合パンフレット「なぜ入管で人が死ぬのか」連載⑧】

更新日:2023年1月23日

4.2009年~2015年


2009年の入管法改定

「不法滞在者の半減5か年計画」が達成された後の入管政策をみていきましょう。

2009年に入管法など外国人の在留にかかわる大きな法改定がなされます。外国人登録法が廃止される一方で、改定入管法のもと、法務省・入管局による一元的で強力な在留管理制度が構築されることになったのです。

この新制度において、非正規滞在外国人の存在は前提にされていません。先に述べたように外国人登録は在留資格のない外国人でも登録できました。交付された外国人登録証を身分証明書にして銀行口座を作ったり運転免許証を取得したりということも可能だったのです。また、住民税を支払い、ごくごく限定的ではあったものの住民サービスを利用することもできました。しかし、新しい制度では非正規滞在者はまさに「いないこと」にされ、在留カードも交付されません。いわば、「非正規滞在外国人は存在しない、存在してはいけない」という前提にもとづく新制度が成立したのです。この制度変更は、法改定の3年後の2012年7月から施行されることになりました。


送還一本やり方針の徹底

2009年7月10日、改定入管法成立を受けての記者会見で、森英介法務大臣(当時)は同法付帯決議にもとづき、在留特別許可の「新」ガイドラインを明らかにしながら次のように述べました。


    平成21年[2009年]1月1日現在で約13万人[6]いると推測されます不法滞在者について、効率的な摘発を行うと

   ともに不法滞在者の自発的な出頭を促し、個々の事案に応じて、退去強制すべきものは退去強制し、在留特別  

   許可を認めるべきものは認めることとし、その更なる減少に努めてまいりたい。


森大臣はさらに「3年後の施行に向けて円滑な制度移行に取り組んでいくことが重要であり」「特に約13万人の不法滞在者を極力減らしていくことが最も重要な点と考えています」と述べました。

法務大臣が「在特基準の見直し、透明化」と称して発表した在特ガイドラインは、これまでの在特事例を踏襲したもので「在特緩和」と言えるものではありませんでした。法務大臣が記者会見でおこなった「退去強制すべきものは退去強制し、在留特別許可を認めるべきものは認める」という非正規滞在者についての発言は、退去強制手続きを厳格に実施するという宣言にほかなりません。

衆議院で改正入管法が可決された6月から関東でも関西でも難民申請者などの再収容者が続出し、仮放免許可が出なくなります。この時期の全国での再収容件数は表1に、西日本入管センター(大阪府茨木市にあったが2015年に閉鎖)長期被収容者数の変遷を図5に示したとおりです。2009年6月以降、再収容件数が急増し、また西日本センターにおいて1年以上の長期被収容者が半年で3倍以上にふくれ上がり、全被収容者の3分の1にまで激増したことがわかります。


表1 退令仮放免者の再収容件数



(井波哲男衆議院議員を介して寄せられた「移住労働者と連帯する全国ネットワーク」からの資料要求に対する回答(法務省入国管理局))


図5 1年以上の長期被収容者数の変遷(西日本入管センター)



(入管問題かんさい支援ネットワークが調査し、2010年3月17日に記者会見で公表した資料)


こうして2009年から長期収容と再収容でいわば「送還忌避者」を国外に追い出そう、在特基準も厳しくしてもっぱら送還によって「送還忌避者」を減らそうという、「送還一本やり」と呼ぶべき方針が徹底されます


送還強硬方針の敗北宣言

この入管の強硬姿勢が大問題を引き起こします。2010年になり、東日本入管センターでは2月にブラジル人、4月には韓国人の被収容者が自死により命を落とします。同年3月には、東京入管横浜支局に収容されていたガーナ人男性が強制送還の過程での入管職員による「制圧」行為により成田空港で死亡しました。

同年の3月には西日本入管センター、5月には東日本入管センターで被収容者による大規模集団ハンストが起きます。ハンストの結果、日本の収容所の長期収容問題が国内外のメディアに取り上げられ、国会答弁があり、その後東西の入管センターは続々と仮放免許可を出し始めます。

同年7月27日には、法務省入管局長は入国者収容所長と地方入管局長らあてに「退去強制令書により収容する者の仮放免に関する検証等について」という通達を出します。同月の30日には法務省入国管理局から同名のプレスリリースが出ます。通達は、収容期間が長期化する被収容者について柔軟に仮放免を活用するよう指示したものです。プレスリリースも同様の趣旨で、「被収容者の個々の事情に応じて仮放免を弾力的に活用することにより、収容長期化をできるだけ回避するよう取り組むこととし、より一層の適正な退去強制手続の実施に努めてまいります」としています。ハンストなどを通して長期収容が社会問題化したことを受け、入管当局は再収容・長期収容等を手段とする送還強硬方針をひっこめざるをえなかったわけです。その意味で、この通達とプレスリリースは、いわば送還強硬方針の敗北宣言と位置づけることのできるものです。


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[6]法務大臣は「不法滞在者」数を約13万人としていますが、さきに触れた図4では同じ2009年の「不法残留者」数は11.3万人となっています。2つの数字が異なるのは、算出方法が異なるからです。「不法残留者」数は、日本に入国したあと在留期間をこえて出国していない外国人の人数を合計したものです。この数字には、入管の把握していない人(密航して来た人など)は含まれません。一方、「不法滞在者」数として法務大臣が言及している約13万人とは、「不法残留者」数に、入管の把握していない(入国の記録のない)在留外国人の推計値を足した数字です。


(次回 「送還一本やり方針の破綻と問題解決の先送り」)

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